私たちは日々の診療において「患者さまが自分自身の口腔内疾病リスクを理解し、自ら積極的に予防法を考えて行動することが、生涯にわたり口腔の健康を維持することに繋がる」と考えています。そのために、口腔衛生指導や治療を行う前に、まずは患者さま自身に自分の口腔内の現状、リスクについて十分理解してもらうための検査、カウンセリングを行っています。
検査では、問診・食習慣アンケートの記入・唾液検査・口腔内写真・歯周組織検査・咬合検査・レントゲン検査などを行い、結果をまとめて患者さまにわかりやすい資料を作成します。
カウンセリングでは、患者さまと歯科医師・歯科衛生士の信頼関係を築くためによくコミュニケーションをとり、患者さまが自分の口腔内の現状とリスク、う蝕や歯周病の原因論を理解できるようにCAMBRA™(キャンブラ)などのリスク評価に基づくう蝕管理法を用いてわかりやすく説明します。そして今までなぜう蝕や歯周病になってしまったのか、患者さまと一緒に考えながら、食習慣の改善、適切な清掃用具とブラッシング方法、必要な予防処置について話し合います。
基礎資料の作成
口腔内写真9枚法
基礎資料の作成
デンタル14枚法と歯周組織検査表
歯周病リスク評価
歯周病の状態を数字に表してわかりやすくし、自分が歯周病になるリスクや歯周病の程度を知るための評価です。『OHIS』(Oral Health Information Suits)ともよばれています。歯周病になるリスクを知ることで、自分に合ったセルフケアを行なうことができ、歯科医院でもその方に合ったプロフェッショナルケアを提供できます。
唾液量と虫歯菌数の測定
患者さまに口腔内の状況とう蝕の病因論をわかりやすく伝える手段として、全ての患者さまに唾液検査を行っています。
う蝕のリスク評価
う蝕のリスク評価はCAMBRA™(キャンブラ)の考え方に基づいて行っています。評価シートを用い、具体的なう蝕予防方法を患者さまにもわかりやすく解説します。
カウンセリングと口腔内清掃用具
患者さまとコミュニケーションをとりながら、生活習慣、今までの歯科経験、バックグラウンド等のインタビューを行います。資料をもとに現在の口腔内状況を説明し、う蝕と歯周病の病因論について、解説します。また、おすすめの歯ブラシ等も紹介します。
プラーク染め出しによる確認
資料作成・カウンセリングを行い、食生活の改善と併せて予防プランを提案します。その後口腔内の汚れを染め出し、適切なブラッシング圧と毛先が歯頸部に当たる感覚を身につけていただきます。
プラークコントロールの再評価
約1週間後に来院して頂き、再度チェックを行います。患者さまの口腔内への意識が向上し、規則正しい食生活やセルフケアが習慣となることでプラークコントロールが改善していきます。
予防歯科とは
歯科医院は、今まで “お口の病気になったら治しに行く場所”と考えられていました。確かに、虫歯が痛くなったり、歯がグラグラしたら、歯科医院で治療を受けるのが当たり前であり、治療を行なうのが歯科医院の役割でもあります。
しかし当院は「生涯にわたりお口の健康を維持していく」という考え方を基に、あらかじめ病気を防ぐために様々なアドバイスを含めケアを行っております。
病気になっても、歯科医院で治療を受ければ治りますが、一度ダメージを受けた歯は、二度と健康な歯に戻ることはなく、弱くなります。つまり、治療を繰り返すことで、歯はどんどん弱くなってしまうのです。
生涯にわたって心も身体も健康に過ごすためには、できる限り自分の歯をたくさん残して、それを使い続けることが大切ですが、歯が弱くなると、それが難しくなってしまいます。
つまり、生涯自分の歯を使っていきいきと過ごすためには、“お口の病気にならないように予防する”ことが大切なのです。
当院では、ただ予防するだけでなく、まずは患者さまに虫歯や歯周病になる根本的な原因を理解していただくことから始めます。そして、予防に対する意識を高めてから、実際に予防に取り組んでいただきます。
自分で行なう『セルフケア』と、歯科医院で受ける『プロフェッショナルケア』を組み合わせた、その方に合った予防方法を提案させていただきます。
唾液検査
虫歯の原因
虫歯の原因は、細菌が食べ物に含まれる糖分を分解し、酸をつくり出して歯質を溶かしてしまう『脱灰』(だっかい)という働きにあります。しかし、唾液には溶けた歯質を修復する『再石灰化』という働きがあるので、この働きによって歯を元の状態に戻したり、虫歯を防ぐことができます。
ただし、唾液の分泌量が少なかったり、糖分を頻繁に摂取すると、脱灰に再石灰化が追いつかず、歯が溶かされ続け、虫歯になってしまいます。
つまり、 虫歯の要因は、“食べ物”“細菌”“歯質”ということになります。
虫歯の原因となる細菌は、虫歯の有無にかかわらず、誰のお口の中にも存在します。しかし、虫歯の原因は細菌だけに限らず、細菌以外の要因が重なることにもあります。
子どもの歯が虫歯になりやすいといわれるのは、再石灰化が進んでおらず、歯質が軟らかいからです。また、歯の色や形と同じく歯質にも個人差があるので、大人でも虫歯になりやすい歯質の方がいます。
だからと言って、必ず虫歯になるというわけではなく、“食べ物”“細菌”という要因が揃うことで、虫歯になるのです。
液検査とは
「毎食後、必ず歯磨きしている」「甘いものを控えている」など、虫歯にならないよう努力しているのに、虫歯になりやすい方がいます。食後の歯磨きや、糖分摂取量の抑制は、虫歯のリスクを減らす対策として正しいものですが、虫歯になるリスクはその方によって異なるので、効果的に虫歯を予防するには、自分の虫歯のリスクや原因を知り、それに合ったケアを行なう必要があります。
虫歯リスクや原因は、『唾液検査』によって知ることができます。唾液を調べて、以下のように唾液の力、細菌の種類や数などお口の中の状態を把握することで、虫歯予防はもちろん歯周病予防にも効果的です。検査の方法は、患者さまの唾液から虫歯菌と、虫歯を進行させる菌を培養する器械を使用し、リスク診断を行ないます。
唾液の量
唾液には、お口の中を清潔にする『自浄作用』、細菌の増殖を抑える『抗菌作用』、お口の中が虫歯になりやすい酸性に傾くのを防ぐ『緩衝能』などの働きがあるので、唾液の量を調べます。量が少ないと、虫歯を予防する効果が弱まってしまいます。
唾液の中和力(唾液緩衝能)
お口の中が酸性に傾くと、虫歯を発症しやすくなりますが、唾液には、お口の中を中性に近付けて虫歯を防ぐ力があるので、この力の強さを調べます。力が弱いと、脱灰の時間が長く、再石灰化の時間が短くなり、虫歯を発症しやすくなります。
ミュータンス菌の数
虫歯の原因となる『ミュータンス菌』という細菌の数がわかります。ミュータンス菌の数には個人差があり、多いほど虫歯になるリスクが高くなります。
ラクトバチラス菌の数
虫歯の原因となるのは『ミュータンス菌』ですが、虫歯の進行にかかわるのが『ラクトバチラス菌』という細菌です。
ラクトバチラス菌の数には個人差があり、多いほど虫歯が進行しやすくなります。
虫歯の予防対策
虫歯の治療を受けて治ったとしても、そうなった原因を突き止めなければ再び虫歯になってしまいます。そのためにも、唾液検査で虫歯の原因がわかったら、それに合った対策を行なって効果的に虫歯を予防することが大切です。
「虫歯になりやすい」と自覚している方には特に、一度唾液検査を受けられることをお勧めします。
歯磨き指導・生活習慣の改善
お口の中の細菌は、増えると「バイオフィルム」という膜状の物質になって歯にこびりつき、虫歯や歯周病を悪化させます。
バイオフィルムは毎日の歯磨きできちんと落とすことが大切です。
毎日歯を磨いているのに虫歯や歯周病になってしまう方は、ブラシの角度不良や磨きグセでうまく歯ブラシが当たっていない部分があるかもしれません。また、飲食の回数が多い方はお口の中の細菌がどんどん増殖して大量のバイオフィルムが付着し、歯ブラシで落としきれなくなっている場合もあります。
患者さまの磨きにくい部分や気になる部分をお聞きし、歯ブラシや歯間清掃用具の選び方、正しくバイオフィルムを除去できるような歯ブラシの角度などを説明致します。また、「規則正しい食生活を送る」「おやつのダラダラ食べをしない」など、食生活を見直し、バイオフィルムが着きにくくなるようサポートします。
メンテナンス
毎日の歯磨きで「バイオフィルム」を除去することは重要ですが、どうしても歯と歯肉の境目(歯肉溝)の中や、歯と歯の間など、歯ブラシが届きにくく磨き残してしまう部位もあります。
また、茶しぶやタバコのヤニなどの着色は歯ブラシでは落とせません。
ご自身でのセルフケアに加えて、定期的な歯科医院でのメンテナンスで「バイオフィルム」や「着色」を除去することで、虫歯や歯周病の予防効果が高まります。
メンテナンスで、「バイオフィルム」や「着色」を歯科用マイクロスコープで拡大して確認しながら、徹底的に除去します。
きれいになった歯に、ミネラルを補給してバイオフィルムやステインを着きにくくする、トリートメントペースト「リナメル」を塗布して仕上げます。
定期的なメンテナンスを継続すると、何もしなかった場合と比べて約3倍歯が長持ちしたというデータもあります。
また、PMTCが終わるとお口の中がスッキリすることはもちろん、歯本来の白さ、ツヤを取り戻し、清潔感のある口元を保つことができます。